見どころ
脱北した天才数学者と挫折寸前の高校生が数学を通じて絆を深め、人生を見つめ直していく感動的な物語。チェ・ミンシクが3年ぶりにスクリーン復帰し、深みのある演技を披露している。
また、円周率をテーマにした「πソング」など、数学を音楽や映像で視覚化する演出も魅力的で、数学の持つ美しさを楽しめる映画となっている。
ストーリー
天才数学者のリ・ハクソン(チェ・ミンシク)は、思想と学問の自由を求めて北朝鮮を脱出し、現在は名門高校の警備員として慎ましい生活を送っていた。
冷たい態度のせいで生徒たちから距離を置かれていた彼だったが、ある日数学が苦手な高校生ジウ(キム・ドンフィ)から助けを求められる。数学を通じて交流を深める中で、二人はお互いの過去と向き合い、成長していく。
感想
最初は、「貧富の格差」「学内いじめ」「受験地獄」などの設定から、胸糞悪い展開が来るだろうと覚悟して観始めた。
でも意外にも、全体を通じて嫌な方向に進むことがなく、むしろ優しいストーリーだったのが驚き。
もちろん辛い場面もあるけれど、テンポよく進むため、嫌な気分が長引かないのが良かった。
ノワール映画に慣れている人ほど「そろそろ暗い展開が来るぞ」と構えてしまいがちだけど、その予想を良い意味で裏切ってくれる。
ネタバレになるけど、全てがスカッと終わるから安心して観てほしい。
主人公のジウ役を演じたキム・ドンフィは、この映画のために200倍のオーディションを勝ち抜いたらしい。
見た目は一見どこにでもいそうな地味な高校生だけど、ラストシーンでしっかりイケメンに成長した姿を見ると、彼が選ばれた理由に納得。
ガールフレンド役のチョ・ユンソも素朴で魅力的。
裕福な家庭に育ちながらも飾らず優しいキャラクターが自然で、彼女の存在がジウの心をさらに解きほぐしているのが伝わった。
そういえば「ペントハウス」という単語が劇中で出てきたのも面白い。たぶんドラマ『ペントハウス』へのオマージュだね。
私の好きなおじさん俳優たちも物語を支えている。
イケオジ古道具屋店主を演じたパク・ヘジュン。さらにチュ・ジンモ(1958年生)やキム・ウォネなど、ノワール映画でよく見かける私の大好きな顔ぶれが揃っているのが嬉しい。
悪役教師を演じたパク・ピョンウンも顔が結構好きなんだよね<●><●>こういう目。
数学という抽象的なテーマを映像化するのは難しいと思うけど、透明な板を通した数式の描写や、バッハの曲を使った演出など、視覚的・聴覚的に楽しめる工夫が素晴らしかった。
亀さんもちゃんと大切に扱われてよかったな。
説明的になりすぎず、ちょっとした小道具や一瞬の仕草でキャラクターの心情を表現するシーンも多く、色んな要素が多いけど、上手くまとまっている。監督のセンスを感じた。
北朝鮮からの脱北者という題材は多いけれど、北へ帰りたがる人のことはあまり考えたことがなかったな。
脱北者たちが抱えるジレンマや葛藤を考えるきっかけにもなった。
北朝鮮を「不思議の国」と「アリスの不思議の国」みたいに呼ぶタイトルも興味深い。ちなみに原題もそのまま。
私自身、高校までは数学が”得意”で、大学の一般教養で”好き”になったけど、文系学部だったから趣味程度。
でも、この映画を観ていると、また数学やってみたくなった。本当よ笑。
ネットが無い時代、家で教科書を解いて遊んでいたあの頃を思い出したよ。
特に数列が好きだった。数学好きというと変態扱いされるけど、パズルゲームのような感覚なんだよね。
残虐凶悪犯を演じる印象が強いチェ・ミンシクの、優しい魅力が全開で、物語全体の温かさが心に残る作品。
暗いテーマを扱いながらも、最後には爽やかな気持ちになれる映画。数学が好きな人も、そうでない人も楽しめる一本なので、ぜひおすすめしたい。
映画情報

原題: 이상한 나라의 수학자(不思議の国の数学者)
公開年: 2022年
監督: パク・ドンフン
主な出演者
チェ・ミンシク(リ・ハクソン)
キム・ドンフィ(ハン・ジウ)
パク・ヘジュン(アン・ギチョル)
パク・ピョンウン(担任教師)
チョ・ユンソ(パク・ポラム)